本文へスキップ
ストリート

スニーカーの転売熱は冷めたのか——並ばなくなった行列の話

要点 / TL;DR

  • 数年前のスニーカー転売ブームを支えた「抽選×即転売」の構図は、以前ほど機能しなくなっている
  • 供給側が抽選や数量を調整し、プレミアが乗りにくい設計に寄せてきた
  • 二次流通プラットフォームの手数料や真贋確認の整備で、素人の小遣い稼ぎは割に合わなくなった
  • 一方で「本当に履きたい人」が定価近くで買える局面は、むしろ増えている

かつて、人気スニーカーの発売日には店の前に夜から列ができた。私もその一人だった。二〇一〇年代の後半、発売と同時に二次流通サイトへ流せば、定価の二倍三倍で売れることが珍しくなかった。あの頃の行列は、欲しい人の列であると同時に、転売を見込んだ「在庫待ちの列」でもあった。

その行列が、いまは目に見えて短い。同じブランドの限定モデルでも、発売翌週に二次流通価格が定価を割っていることすらある。何が変わったのか。当時と現在を並べてみると、変化は需要側よりも供給側と流通側にあったことが見えてくる。

かつて:抽選が「宝くじ」だった頃

ブーム期の構図は単純だった。供給が絞られ、欲しい人の数が在庫を大きく上回る。抽選に当たること自体が金銭的価値を持ち、当選=利益確定に近かった。日経クロストレンドなどのビジネスメディアは、この時期のスニーカーを「履く商品」と「運用する資産」の二面で語ってきた。実際、フリマアプリ上では履かずに箱のまま転売される個体が大量にあった。

いま:プレミアが乗りにくい設計

現在の発売を見ていると、供給側のふるまいが明らかに変わっている。抽選の当選者を購入履歴や居住地で分散させたり、初回数量を以前より積んだりと、「転売前提の行列」が割に合わない設計に寄せてきた。狙いどおりかは別として、結果としてプレミアの乗り方は鈍くなった。

流通側の変化も大きい。二次流通プラットフォームは真贋確認の工程を組み込み、その分の手数料を取る。WWDジャパンが報じてきたように、真贋トラブルへの対応はプラットフォームの信頼に直結するため、ここは省けない。素人が片手間に売るには、手間と手数料が重くなった。差益が薄くなれば、夜から並ぶ動機は消える。

ただし「沈静化」と「消滅」は違う

もっとも、転売そのものが消えたわけではない。本当に数の出ない別注や、海外のみ展開のモデルは、依然として高値で動く。相場が立つほど数が出回らないものほど、プレミアは残る。ここは古着のヴィンテージと同じ構造で、裏原の古着店を歩いた記録で見た「相場が効かない希少品」の話とちょうど裏表になっている。

裏を返せば、ブームの沈静化でいちばん得をしたのは、転売益を狙わない普通の客かもしれない。発売後しばらく待てば、定価か、ときに定価以下で目当ての一足が手に入る。並ばずに、履くために買う。当たり前のことが当たり前にできるようになった、とも言える。

列が短くなった街で

先日、かつて長蛇の列ができた店の前を平日の昼に通った。発売日だというのに、入口に張りついているのは数人だけ。手にしているのは整理券ではなくコーヒーで、急ぐ様子もない。私はその光景に、少しだけ寂しさと、それ以上の健全さを感じた。

スニーカーが資産として語られた数年間は、たしかに熱があった。だがその熱の多くは、靴そのものではなく差益に向いていた。差益が消えたいま残っているのは、デザインと履き心地という、もともとの評価軸だ。ブームが去ったあとに何が残るかで、その文化の体力が分かる。スニーカーは、思っていたより体力があった。

参考・関連

  1. 日経クロストレンド — スニーカーの二次流通・リセール市場に関する報道
  2. WWDジャパン — 二次流通プラットフォームの真贋確認に関する記事

関連記事

RELATED